東京高等裁判所 昭和46年(行コ)55号 判決 1972年10月27日
東京都千代田区丸ノ内二丁目八番地
第五五号控訴人
日本レーヨン・コンサ
第五六号控訴人
ルタンツ株式会社
右代表者代表取締役
ウイリアム・アール・シユミツツ
右訴訟代理人弁護士
阿南主税
東京都千代田区大手町一丁目三の二
第五五号被控訴人
東京国税局長
安川七郎
東京都港区芝五丁目八の一
第五六号被控訴人
芝税務署長
田中四郎次
右両名指定代理人
山田二郎
石倉文雄
小林松夫
鈴木茂
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
(申立て)
一、第五五号事件について
控訴人
原判決主文第一、三項を取り消す。
被控訴人(東京国税局長)が、昭和三七年三月一日付東局直法審第七五号東協特第一〇〇号をもつて、控訴人の昭和三三事業年度分法人税更正処分に対する審査請求を棄却した決定は、これを取り消す。
訴訟費用は被控訴人の負担とする。
被控訴人(東京国税局長)
本件控訴を棄却する。
二、第五六号事件について
控訴人
原判決主文第二、三項を取り消す。
主位的請求
被控訴人(芝税務署長)が、昭和三九年二月二六日付でなした控訴人の自昭和三三年一月一日至昭和三三年一二月三一日事業年度分法人税の再更正処分及び重加算税の賦課決定は、これを取り消す。
訴訟費用は被控訴人の負担とする。
予備的請求
被控訴人(芝税務署長)が、昭和三九年二月二六日付で控訴人の右事業年度の法人税についてなした右再更正処分のうち八八、七九四、一九二円を超える部分はこれを取り消す。
訴訟費用は被控訴人の負担とする。
被控訴人(芝税務署長)
本件控訴を棄却する。
(主張および証拠関係)
当事者双方の主張および証拠の関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
一、控訴人
控訴人が、本件事業年度の決算ならびに確定申告書を提出するに当たつて、第三レターによる請求分一九、九五五、七八三円からクレーム承認額二、三〇九、九四一円を控除した一七、六四五、八四二円を計上しなかつたのは、近江絹糸がまだこの請求を承認せず、売上債権が確定しなかつた理由によるものであつて、租税逋脱の目的で隠ぺい、仮装したものではない。
仮に、被控訴人(芝税務署長)主張のとおり、隠ぺい、仮装の不正行為の場合の五年の更正時効が適用される場合であるとしても、青色申告法人である控訴人は、昭和三八年二月二八日付で申告洩れと称する金額ならびに仲裁裁決の結果生じた損益の総てを申告し、これにより本件請負契約による納税義務はすでに確定しているのであるから、青色申告承認の取消処分が先行しない限り、納税義務の単一排他性の原則により、その後になされた、再更正処分は違法であつて、更正の効力は生じない。しかして、被控訴人は青色申告承認の取消しをしなかつたものであるから、控訴人の隠ぺい、仮装の不正行為の有無の問題は別としても、被控訴人のなした再更正処分は無効である。
二、被控訴人芝税務署長
青色申告法人に、法人税法(昭和四〇年法律第三四号による改正前のもの)第二五条第八項各号に該当する事実があつても納税地の所轄税務署長はその承認を必ず取り消さなければならないものではなく、取消しをするか否かはその裁量にまかされているものであるから、更正決定を行うに当つては、青色申告承認を取り消して後更正を行う方法によることもできるし、青色申告承認の取消しを行わずに更正を行う方法によることもできるものである。被控訴人は、本件事案が五年の更正の除斥期間の適用を受ける事実であると判断し、更正を行なつたが、青色申告承認は取り消す必要はない、と判断したものであつて、被控訴人がなした本件再更正処分に何らの違法はない。
また、青色申告承認取消しの規定である法人税法第二五条第八項と更正の除斥期間を定めた国税通則法第七〇条の規定は、法律要件を異にしているのであり、被控訴人が青色申告承認の取消しをしなくて更正処分をしたことに違法はない。
三、証拠関係
控訴人は、原審で甲第一号として提出した自昭和三三年一月一日至同年一二月三一日法人税確定申告書写を撤回して、改めて同事業年度の法人税確定申告書写を甲第七号証として提出したほか甲第八号証の一ないし三(いずれも写)を提出し、被控訴人らは右甲号各証の成立(原本の存在とも)と認めた。なお原判決三八枚目表三行目から四行目にかけての「乙第七号証の一および」を「乙第七号証の一および二」に改める。
理由
当裁判所も、控訴人の被控訴人東京国税局長に対する訴えは不適法であり、被控訴人芝税務署長に対する請求は理由がないと考えるものであつて、その理由は左に附加訂正するほか、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。
一、原判決三九丁表二行目の「本件更正の取消しを求める訴について」を「更正処分と増額再更正処分との関係」に改め、同四〇丁表二行目から八行目までを削る。同四二丁裏四行目の「原始契約の」を「原始契約によるもの」に、同五行目の「第一レターによる」を「第一レターによるもの」に、同行の「第二レターによる」を「第二レターによるもの」にそれぞれ改める。同五二丁表一〇行目の「供与し」を「供与する、上記は」に、同一一行目の「運転に関連するものとし」を「運転に関連するものと諒解するものとし」に改める。
同五四丁表二行目の「契約書」の下に「第一章」を加える。同五六丁表三行目の「右に」を「右にいう」に改める。同五八丁表四行目「第四章」を「第五章」に改める。
同五九丁表一行目「計上した」の次の句点を削る。
同六〇丁表七行目「法人税法が」を「法人税法は」に改める。
同六二丁表二行目「証拠はないから」の「から」を削り、同所に句点を挿入する。
二、青色申告承認の取り消しをせず、本件再更正をなしたことは違法である、との主張について
控訴人が、本件再更正(昭和三九年二月二六日)がなされるより前、昭和三八年二月二八日付で青色による確定申告書を提出したこと、右申告書で昭和三七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の所得として第三レターによる売上げをも含めて計上したこと、これに対して被控訴人署長が調査更正を行なわなかつたことは、被控訴人らの明らかに争わないところである。
控訴人は、右申告により、申告どおりの課税標準による税額で確定したものであるから、青色申告承認の取消処分が先行しない限り納税義務の単一排他性の原則により、後に生じた更正処分は違法であつて更正の効力は生じない、と主張するのであるが、申告により納付すべき税額が確定するといつても、上訴期間経過による判決の確定の場合とは異り、当該事業年度の課税標準なり税額が全体について終局的に確定するものではないから、所轄税務署長が所定の期間内に更正することを妨げるものではない。しかして第三レターによる売上げを計上すべき事業年度が三三年度に属することは原判決第三、三、4(六〇丁裏七行目以下)に説明したとおりである。(なお、このことは仲裁裁定によるクレーム認容額九、〇九一、三〇八円が控訴人の請求額と対当額で相殺されることによつても左右されない)から、被控訴人署長が同事業年度の申告書にかかる課税標準を更正したことに違法はない。
なお、更正が青色申告書にかかる法人税の課税標準等に関する場合には、備付けの帳簿書類を調査し、その記録の誤りがあつた場合に限りなしうるという制約があるにとどまり、青色申告承認を取り消したうえでなければ更正をなしえないものではないから、控訴人の本主張は理由がない。
三、 重加算税の賦課処分について
控訴人が第三レターによる売上げを確定申告書に計上しなかつたことが、納付すべき正当法人税額を過少ならしめてその不足税額を免れる意図に出たものと認むべきであることは、原判決第三、一(四二丁表一行目以下)に説示したところであり、右は法人税法(昭和三七年法律第六七号による改正前のもの)第四三条の二の「隠ぺい又は仮装」したところに基づいて確定申告をしたことにあたるから、被控訴人署長が同条を適用して本件重加算税を課税したことは正当である。
四、 結語
控訴人の被控訴人らに対する本件控訴は、いずれも理由がないから、棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 位野木益雄 裁判官 鰍沢健三 裁判官 鈴木重信)